- タイトル
- 同窓会の社会学
- 著者
- 黄順姫(筑波大学人文社会系教授)
- 発行所
- 世界思想社
- 形式
- A5版 244ページ 2000円+税
同窓会に出ておもしろいことのひとつは、意外性に出合うことである。学生時代は、いるかいないかさえはっきりしなかった女子が、華やかな有閑夫人に変貌していて、驚くこと。逆に昔のモテ男が、どこにでもいるただのおじさんになってしまっている場合もある。昔抱いた羨望と嫉妬の恨み?をはらしたりもできる。
そんなよこしまな感情を持って同窓会に出席しても、最後に運動会や対抗戦で必ず歌った応援歌や校歌を皆が肩を組んで大声で歌うと、著者のいう「単純な過去」ではなく、「特別な性質がしみこんだ」過去が現前する。だからこそ、目頭が熱くなるのである。何十年も前の学校生活がすべて楽しかったわけでもないにもかかわらず、である。
本書は、この学校愛感情が集合的記憶の再生としてノスタルジアとなる感情経路を摘出するものであるが、学校愛の分析にとどまらない。同窓生の信頼を通じての人脈資本(社会関係資本)についてまで対象を広げている。同窓会ネットワークは、仕事はいうまでもなく選挙や就活に活用されている。調査校(福岡県立修猷館高校)出身者が立候補した選挙で協力要請に応じたかのアンケートでは、66%もの人が協力に応じたと答えている。同窓会ネットワークは他校出身の妻や夫をまきこんでのサークル活動にもつながっている。
聴き取り調査・質問紙調査はもとより参与観察・同窓会誌・同窓会記念文集・同窓会新聞の分析を総動員することで「学校的身体文化」と「集合的記憶」が解明されている。ウオッチを十数年も続けた成果である。
本書が高く評価されるのは、従来の教育社会学者の学校社会学が現在の学校だけを対象にしてきたのに対し、学校教育の深い意味を読み取るには、卒業後にも学校は人々の生き方に刻印を打っているという視点と分析的な解明である。「同窓生の過去の学校は、彼らの現在の学校であり、未来に開かれた学校である」と著者はいう。名著に名言ありである
紹介文:竹内 洋 関西大学東京センター長(茗渓1074号に掲載)