平成25年度の神奈川茗渓会総会は、7月6日(土)11時よりローズホテル横浜にて開催され、総会終了後、恒例の神奈川茗渓会講演会が行われました。
神奈川茗渓会では、毎年、総会の折に茗渓会員の中から講師をお迎えし、講演会を設定しています。今年度は、フリー・ジャーナリストの松舘忠樹氏(昭和43年東京教育大学文学部卒・元NHK青森放送局長)を講師にお願いし、「東日本大震災から2年4か月―“復興”の名の下に何が進行しているか―」を演題に、東日本大震災の復興の状況と課題について1時間余りに渡り熱く語っていただきました。
以前NHK社会部の記者だった松舘氏は、東日本大震災から2年以上経た現在、被災地でどういうことが起きているかについて、大手メディアが報じないことを織り交ぜ、次のように話されました。
今、東北の被災地は震災の被害から復興の途上にあり、一見各地が復興需要で賑わっているかに見えるが、賑わいは仙台市などに限られており、石巻市や南三陸町など被災地の現況は復興には程遠い状況がある。
東日本大震災は、三陸沿岸の住民にとっては、過去の教訓を踏まえ、「忘れない頃にやってきた災害」だった。しかし、被害が甚大であったのはなぜなのか? 正しい危機管理―地震・津波を正しく恐れること―という点が忘れられていたためではなかったのか?
復興のあり方について考える時、復興とは、単に震災前の地域社会を元に戻すというだけでなく、今回の被災地は急速に過疎化が進行している地域であることを踏まえ、住民本位の復興を構想すべきではないのか?
ほとんどの自治体が進めている防災集団移転促進事業は、被災した宅地や農地を自治体が買い取る方式だが、住民の費用負担は大きく容易に進まない。さらに、住民の合意形成が不十分なまま集団移転を進めていることが各地で問題を引き起こしている。被害の規模や、経済的な条件など被災住民の抱える事情は千差万別だ。こうした点を考慮して、移転を選ぶのか、現地再建を選ぶのか、被災住民には複数の選択肢を提示すべきである。
さらに言えば、「惨事便乗型復興」というものがある。これはナオミ・クラインが2005年ハリケーン・カトリーナに襲われた米国ニューオーリンズで起きた事態をDisaster Capitalism(惨事便乗型資本主義)と呼んだことに由来する。住民が被災の衝撃から立ち直っていないのに乗じて、市場原理主義による経済改革や特定の勢力の利益を導入する形の“復興”を意味する。
14.8メートルもの防潮堤を作る「国土強靱化」政策、仙台市の「農と食のフロンティア推進特区」、異業種企業の農業参入問題、水産復興特区による漁業権付与の動き。これら、被災地で進行していることが「惨事便乗型」の復興ではないのかとの疑念はぬぐえない。住民本位の復興とは言い難い。
こうした中、各地で住民グループが、住民本位のまちづくりには何をするべきか真剣に考えようとしている。江戸時代までは根付いていた日本の住民自治の伝統を取り戻そうという、こうした努力が実る日は必ず来ると信じている。その日を見届けるためにも、これからも取材を続けていく。
松舘氏は、このような思いを述べて70分に及ぶ講演を締めくくられた。
(出席者53名)